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管理人の「徒然なるままに日暮し」な状態報告と創作公開場所とします。
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もの書きのリハビリテーションとして、『学園』の番外編を書いてみました。
とりあえず、「書かなくては進まないどころか、またのびのびになる~!」と
焦りの心境で書いたので、自己すらも満足できているのか微妙なところですが、
「ああ、まだ続ける気はあるんだなぁ・・・」と思って読んで下されば幸いです。

以下、余裕と度量のある方はご覧下さい。

『 距離 』

 くしゃ
 その音で読んでいた便箋を握る手に力が入って、
便箋を握る形になっていたことに気付いた。
 象子は慌てて紙を机に押し付けて皺を伸ばそうとしたが、
ハンカチなどではないそれについた皺が伸びることはない。
 誰に見られた訳でもないが、象子は自分を恥じ入った。
 そしてそれを誰かのせいにしてなじりたかった。
 「遠子の無神経・・・・・・」
 あの子にはわからない。自分のこんなドロドロして抱えきれない気持ちなど、
あの前向きな子には理解できないだろう。
 「バカ」


 「やあ、久しぶり。元気だった?」
 久しぶりと言いつつ、その口調は毎日の挨拶程度の軽いものに聞こえた。
 「別に。いつもと変わらないわ」
 「ホントだ。前会ったときと変わらずの美人だ」
 象子は懸命に赤くならないように全身に命令を下していた。
 効果の程はわからないが、鼓動の大きさからすると命令は無視された可能性の方が高い。
 「そこをどいてちょうだい。忙しいの」
 「はるばる君に会いに来たっていうのに、もう行ってしまうのかい?」
 「あなたの行き先は、この先の図書室でしょう!船舶研究会だか、何だか、
どこまで本気なのかしらないけれど、よくもまぁ、この交流試合の期間に潜り込めたわね」
 「良く知っているね。オレのこと、少しは気にしてくれていた?」
 「馬鹿言わないで。遠子が勝手に書いてきたのよ」
 ああ、と自分の行く手を塞ぐ形で立っている目の前の長身の男は破顔した。
 途端に象子の胸は重苦しくなった。
 「お子サマなあいつのことだから、またピーチク文句でも書いてきてた?
大げさなんだよ、意外に細かいっていうかさ」
 彼の手が自分の肩に置かれそうになって、象子はそれを避けて語調を強めた。
 「先生に呼ばれているの。手伝いがあるんだから通して!」
 近づいた手は引かれ、彼は肩を竦めて苦笑いして道をあけた。
 横を通り過ぎる瞬間、象子は寂しさを感じた。
 どうしてそこで除けるの。
 もっと自分を引き止めていればいいのに。
 彼が自分を見送っているのか、そのままあっさり反対方向へ進んでいるのか
わからないけれども、象子の背中はいつまでも緊張したままだった。

 
 二人で話す機会などめったにない。
 学校が違うのだから仕方がないが、その滅多にない機会に、
彼と自分の距離が全然縮まっていないこと、遠子と彼はとても親しいことが浮き彫りになる気がする。
 彼のことなどは「女好き」ぐらいしか知らない。
 好物は何かも、特技も、誕生日も、好きな色も、側にいられればきっと
自然と見えてくるようなことすら、何も知らないのだ。
 知ろうとするなら改めて本人に聞かなくてはならない。
 そんな素直さや勇気が自分に出せるとは、象子には思えなかった。
 「遠子ならきっといろいろ知ってるんだ・・・」
 そしてそれを迷惑そうな顔をして言うのだろう、あの子なら。
 存在が近いから憎まれ口を言い合える。
 美人だとか褒められるよりも、その方がずっと特別な関係だと思える。
 誰にでも言えるようなお世辞よりも、自分だけの憎まれ口が欲しい。
 「バカ」
 象子自身にも、それが誰へ向けた言葉なのか解らなくなっていた。


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