忍者ブログ
管理人の「徒然なるままに日暮し」な状態報告と創作公開場所とします。
18 17 16 15 14 13 12 11 10 9 8
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

終わりが見えたといいながら、衣類には手をつけられませんでした。
今日は各種手続きに行ってきました。
住民票の異動や電話・電気などなど。
あと職場の仕事道具を持ち帰ってきたり。
この道具の仕分けに時間と気力を要したわけです。

さて、引越しの手は動かしつつも練っていた、自己満足の
創作物ですが、自己満足のまま進行したいと思います。

『龍の嫁取り』
二、
 龍穴と呼ばれる洞は果てしなく長く続く。
 その行き着く先の全てを知ることは、ここを祀る斎である彩季にも無理なことだった。
 それでも恐れずに危なげなく“散歩”できるのは、やはり斎たるゆえである。
 所々に薄青く光る岩が辺りを照らすが、さして見るべきものもなく、彩季は足を進めていた。
 声がする。
 恐らく自分を呼ぶ、従兄弟の声だろう。一族の中でも自分を除けば波流季だけが、龍穴に恐れることなく立ち入ってくる。変わり者だが、だからこそ自分も彼の過干渉を許してしまう。
 聞こえていたのに歩みを止めないことがばれると、後が面倒なのを体験から知っていた彩季は、黙然と声が近づいてくる方を見ていた。
 「やっぱりここだったか、彩季!」
 憤まんやるせない様子で、長身の従兄弟は大股で数歩近づいてきた。
 「これから婚儀だっていうのに、主役の一人がいなくてどーする!?」
 がしがしと頭を鷲づかみにされて、彩季はその腕を無言で振り払った。
 波流季がのぞき込めば眉間の皺が深くなっている。
 もともと美しい容姿の者が多い一族の中でも、彩季の美貌は突き抜けていた。女性的な部分はなく、眼光鋭いのに、通った鼻筋、けぶるような濃い睫毛に縁取られた涼やかな目元、薄い唇、それらが過たずに白い弧を描く輪郭の内に整って配置されている。白いものが混じるのは惜しまれるが、髪は先が青みを帯びた艶やかな黒色をしている。また、清冽な気を放っていることで、尚一層それらは神々しく感じられるのだ。
 その顔に刻まれる眉間の皺も、返って人形のような顔に生気を与えるかのようで、美しさに翳りはない。
 何度見ても見慣れることなく、波流季は従兄弟の顔に我知らず見入ってしまったが、そうもしておられない。
 「花嫁に早く顔を見せてやれ」
 「必要ない。どうせ形だけだ」
 彩季の頑なな態度に、波流季は肩を竦めて見せて投げやりに言った。
 「では、アレは“桃果”として喰われるだけだな」
 来た道を戻っていく足音を、彩季はただ黙って聞いていた。


 導かれるままに燈歌は湯殿で身を清めた。
 村で用意された婚礼の衣装は持ち去られた。衣装を持っていこうとする女性を引き止めたい衝動にかられたが、すぐにそれは自制した。母が寝ずに縫い上げ用意してくれた衣装であったが、こちらでは相応しくないのかもしれない。村から切り離された自分が、村に縁あるものに未練を残すことも躊躇われた。
 それよりも気になるのは、今の女性も、案内をしてくれた女性も、先程の男のような人ではない気配を感じないことだった。
 ここの女性は人間なの?
 私の他にも、ここで生きている人がいる…?
 湯で髪を梳きながら燈歌はぼんやりと考えた。
 「こちらにお召し替え下さい」
 差し出された白い襦袢と着物と内掛け。
 どれも先程のものと大きな違いは見られない。金の刺繍が多少豪奢であることと、触れてみれば羽のように軽い。
 衣を差し出した女性が自分の歳に近いのを見て取った燈歌は、尋ねてみた。
 「あの、“こちら”の女の人は“ヒト”ですよね・・・」
 女性は質問の意図を理解するとそっと微笑んだ。
 「ここは、龍の世界。ここにいる女は皆、人界から捧げられて龍の妻となった者達です」
 「私の他にも・・・・・・」
 その事実に安堵していいのか、哀れんだらいいのか、燈歌は戸惑った。
 「けれどあなたは特別ですよ」
 燈歌の不安を勘違いしたのか、女―葛葉(クズハ)は柔らかく笑み続ける。
 「あなたは一族に繁栄をもたらす花嫁だそうです。ですから、一族の長とも言える斎の宮に嫁しなさるのです」
 己の知らない己の情報に、燈歌は驚愕した。
 生贄として捧げられた自分が、ここでは一の女性として扱われるというのだ。
 燈歌が何も知らぬのを悟って、葛葉は気遣うようにそっと手に触れてきた。
 「龍族から母となれる種が産まれなくなって久しいと聞いています。それがこちらの均衡と共に、人界の均衡も崩しているようです。もっとも、均衡が崩れたからこそ、母体が産まれなくなったとも言えますが。
 人界とこちらはそれだけ深い繋がりがあるようですよ」
 人は自然の変化を察し、生贄を捧げる。
 その生贄が『女』で、『花嫁』として差し出されるのは、知らず龍界の異変を感知しているためなのかもしれない、と葛葉は語った。
 燈歌の手が震えているのを知った葛葉は、少し手に力を込めて、燈歌を励ますように握った。
 「大丈夫です。だんな様、―龍神は子をいずれ宿す私たちを、それはもう大切にして下さいますよ。まして貴方は一の方となられるのですから、一族からも尊ばれることでしょう」
 縋りつきたい思いで、燈歌は触れる葛葉の指先をきゅっと握り返したのだった。


 婚儀の間は静けさの中に憤りが満ち、それが怒声となって聞こえてくるようで燈歌は耳の痛みを感じた。
 白無垢の燈歌の横は依然として空席である。
 時折、視線を上げると燈歌を案内した青年と目が合うが、彼も困ったような笑みだ。近くの者に状況の説明を求められているのも数度見られた。
 (まいったなー。本気で来ないのか)
 波流季は全神経を寄せ集めて笑顔を作っているが、もう限界を感じていた。
 気乗りしていない様子だったとはいえ、まさか婚儀をすっぽかしはしないだろうと思っていたのだが、雲行きは怪しい。
 黒づくめの威儀を正した正装の中、たった一つ咲く白い花が不憫で仕方がない。
 とびきりとは言わないが、今宵の花嫁はヒトにしては美しい方だと思う。顔は今は白を通り越して青ざめているが、紅い弧を描く唇も、伏せられた睫毛に縁取られた目許も形がいい。年の頃にしては幼い様にも見えるが、幾重にも重ねられた着物の上からも判る、華奢な体つきには庇護欲を誘われる。
 人界からこちらへ渡れる娘は一族としても貴重な存在だ。龍を身籠れる母体が一族から誕生しない今、ヒトと言えど一族の誰もが、自らの花嫁は大切にする。これはもう、本能の域にある龍の習性と言っても良いはずだった。
 しかし、彩季は頑なにそれを拒んでいる。
 「もう始めるがよかろう」
 ぎょっとして、波流季は声の方を向いた。
 一族の中でも重鎮どころだが、彩季とは折り合いが悪い壮年の人物が眉を吊り上げている。
 「斎殿ほどではないにしろ、我らとて暇ではない。これ以上待っても無駄というものだろう。幸い花嫁はいるのだ、始めるんだ」
 その周囲で数名がその言葉に賛同した。
 粛々と二つの漆塗りの盃が運ばれて、花嫁の前に捧げられた。
 まず、小さな盃に酒が注がれて、花嫁に差し出された。
 おずおずとそれを震える手で受けた花嫁は、何とか酒を零さずに口に運んだ。
 波流季は、花嫁の表情が酒を口に含んだ瞬間にわずか歪んだのを見て取った。
 慣れていないのだろう。あの歳では無理もない。しかし―――。
 一つ目を飲み乾した後、次いで差し出される盃は・・・・・・。
 「―っっ!」
 燈歌は息を飲んだ。
 何とか一つ、盃を乾すことができたというのに、目の前に差し出されたのは、桶かというほどの大きな一抱えほどもある盃だった。
 そこへ酒が満たされてゆく。一人で持ち支えることも困難だった。
 女の細腕で支えられるはずがない。その盃は龍の花婿に与えられるものなのだ。
 波流季は唇を噛んだ。
 懸命に娘は酒を飲んでいるがほとんど減っていない。
 「いつまで掛かっているんだ!さっさとしろ!!」
 苛立つ声が挙がる度に、娘の肩は震えている。
 憐れな花嫁に向けられる眼差しのほとんどが嘲笑で満ちていた。
 「茶番はもう十分だ。斎の宮がこの娘をいらぬというのであれば、俺がその杯を飲み乾そう」
 声が挙がるとともに、正面の屏風の前へ臆せずに進みよる者が現れた。
 燈歌は盃から口を放して、その人物を見た。
 深い緑とも見える黒色の短髪は癖が強い。先程から自分を不安げに見ていた青年ほどではないが、向かってくる人物の背も高い。
 しかし燈歌を竦ませるのは金に光る眼光と口の端が上へと歪んで吊られたというような笑み。
 「『桃果』を迎えられるなら僥倖だな」
 差し出された手が恐ろしくて、燈歌は思わず顔を背けて目を瞑った。
 その手は杯を通り過ぎ、綿帽子に隠れた燈歌の髪の一房を握り引っ張った。
 「明葵(メイキ)殿!?」
 波流季は声を挙げたが、周りの囃し立てる声にかき消された。
 「面白い、斎の花嫁を門番ごときが奪い取るか!」
 「ほほう、大出世したものよな、明葵!」
 揶揄も聞こえぬというふうに、明葵は正面から燈歌を見ていた。そして盃を燈歌の手から掬い取った。
 盃が明葵の口に触れる寸でのところで、音が轟いた。
 誰もが動きを止め辺りを窺おうとしたとき、冷ややかな声が場を凍りつかせた。
 「誰の許しを得て、斎である俺の盃に口をつけるのか」
 「さっ、彩季っ!」
 現れた人物は明葵の盃を持つ手首を掴むと、そのままそれを一息に乾した。
 そして手首を捻り挙げて、盃を奪うと床に叩きつけてそれを割った。
 「余興は仕舞いだ」
 そう言うと燈歌を振り返りもしないで、ひしゃげた襖の奥へと立ち去ってしまった。
 一瞬の出来事だった。
 残された燈歌は一人、唖然とする観衆の中、割れた紅の杯といつの間にかへし折られていた襖とを交互に見つめるしかなかった。



ここまでご覧頂き、有難うございました。

PR
COMMENT FORM
NAME
TITLE
MAIL
URL
COMMENT
PASS secret
COMMENT
TRACKBACK
TB URL
03 2025/04 05
S M T W T F S
1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30
[03/02 鼎]
[02/26 ぴっころ]
[02/26 ぴっころ]
[02/26 ぴっころ]
[02/17 鼎]
HN:
玖珂 鼎
性別:
非公開
趣味:
楽描き / ゲーム
自己紹介:
もそもそまったり生きながら、
目下目標は一日一画!(ムリ;
オリジナルも頑張りたい今日この頃。
忍者ブログ / [PR]
/ JavaScript by Customize in Ninja Blog / Template by 小龍的徒話